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否定されたモノ

こんばんは。白王店主です。

以前SNSで当店のスタンスについて
『歴史はルーツであって、ルールではない』

『形式を理解した上で、敢えて形式に拘らない』と言及しました。

スタイルや習慣は、時代とともに刻一刻と変化します。
例えばスーツのデザインの起源はカジュアルな部屋着・普段着です。

しかし
フォーマルイメージが定着した現代で
『公の場で着るのは歴史的にナンセンスだ!』
と怒る人はいません。

裏を返せば、スーツを普段着に活用しても
歴史的には何ら間違っていません。
※私はスーツを私服として楽しんでいます。

今の時代は、モノの活用方法に様々な選択肢が与えられています。
時計のスタイルや格式も同じです。

モノの歴史やルーツを学ぶのは
コトの成り立ちを正しく理解するためであり
反面、その固定概念から離れるきっかけでもあると考えています。

時代に合わせて様々な派生が生まれ、
時には原点回帰を行い
時には時代に否定される

”今ある価値観”から、改めて
それらのプロダクトにスポットを当てたいと考えています。

今回は、
1970年代のOMEGAの代表的モデルについてです。

——————————————————
OMEGAの歴史において、
1970年代から90年代ほど”否定”された時期はありません。

流行の変化
日本製腕時計の台頭
企業体力の低下

生み出すプロダクトが次々と
”負の遺産”に絡めて論じられ、
後世で否定的に語られてきました。

様々なムック本やウェブサイトの論調を見れば、
その傾向は明らかです。

確かに
~60年代の一流メーカーのクオリティは
目を見張るものがありました。
70年代それまでのモノづくりと思想が変わり
合理化・樹脂パーツの使用率が高まったのも事実です。

ただ、実際に手にして、
”ダメだこれは”と思った人がどれだけいたのか?

私を含め、
ネット社会では他人の情報を追体験し
知った気・分かった気になりがちです。
有名なサイトに載っていた情報が
誤りであったことは何度もあります。
(当然、私の情報が全て正しいとも限りません)

店主は自省を込めて実際に手にして『どうだったのか』を意識するようにしています。

1970’s OMEGA Constellation Gerald Genta Cal.1011 Chronometer

オメガの高精度を象徴する、
旗艦シリーズ。

Cラインケースと呼ばれるモデルの
後期型に位置します。

それまで一般的だった
アクリル製のドーム風防が廃止され
量産可能となったミネラルガラス風防採用。

直線で構成されたフェイスに、
切り立った『OMEGA』の文字とインデックス。

時計界の巨匠、
ジェラルドジェンタがデザインした
独特の曲線を描く Cラインケース。

レトロフューチャーという言葉がぴったりながら
上級機のオーラを漂わせているのは前期型と変わらず。


薄く、そして軽い。

裏蓋の天文台の意匠は健在。

文句なしに格好良い時計です。

次に、問題のムーブメントです。

ムーブメントは
薄型・ハイビート化し高精度を追求した
クロノメーター機Cal.1011にチェンジ。

この
通称1000番代と呼ばれるCalシリーズは
”愛好家”からの評価があまり芳しくないムーブメントです。

先に述べた「思想の変化」により、
これまでのOMEGAとはずいぶんと仕様や趣が変わった
ことが要因でしょう。

先に結論を述べると、
このムーブメントは明らかに過小評価されています。

先代と比べればピーキーな面はあれど、
腕時計を実用たらしめた一つの完成形。

というのが私の総評です。


当店とタッグを組む技術者も
『この構造は単なるコストカットではない』
と明言しています。

まず、
コストカットと揶揄される原因に
機械表面の防錆処理の仕上げが真っ先に挙げられます。

先代のムーブメントの防錆メッキは、
上記のような梨地仕上げではなく
地厚で美しい鏡面で仕上げられていました。

どちらが美しいかと言われたら
先代、と言わざるを得ません。

ただ、この仕様変更が要因で傷みやすくなった
とはあまり聞いたことがありません。

赤いBeCu防錆処理はしっかり継承されていますし
冷静に見ればなかなか特徴的で格好良いムーブメントです。

カレンダーは、
現代時計のようにスムーズな日送りが可能。

カレンダーパーツのプラスチック化も、
薄型・軽量・小型化・効率化のために採用されています。

ここが折れている個体の多くは、
過去に日付の変更禁止時間帯に
日を送ったことが原因のようです。
やたらめったらバキバキ折れるものではありません。

竜頭を引き上げると1日ジャンプする
という先代の何とも古典的な?機構からすれば、
利便性は代えがたいものです。

薄型と高精度を追求するため、
部品点数は多く ”先代と比べれば”一つ一つが繊細。
修理担当者からすれば、
手間のかかる構造かもしれません。

とはいえ、
その完成度を見れば
『単なるコストダウン』
と断罪するのは無理がある気がします。

秒針を止めるハック機能
高精度で薄型
スムーズな日送りを実現した機構
あくまで基本に忠実

十分すぎるほどに
『実用的なヴィンテージウォッチ』
と言えるのではないでしょうか。

ちなみに白王店主のお店では、
この機械の消耗部品は
今のところ供給に問題はありません。


通説やバイアスに囚われず
客観的な事実に基づいて判断していくと
否定が肯定に変わる瞬間があります。

私はこの時計を”肯定”します。

白王店主

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